こたつの魔法

今日も、こたつは温かいです。

こたつというのは、なんといっても魔物です。
いったん入ったら、もう出たくない。用事のことなんてどうでもよくなってしまいます。
だから、わが家には長いあいだ、こたつがありませんでした。

でも、ある年の冬のことです。
がんばってがんばって、がんばりすぎて、少し感情が麻痺してしまったような頃。
寒い風の吹くなか、ふと、もうひとりの自分がささやきました。
「少し、休ませてあげないと。自分にやさしくしないとね」

そして私は電気屋さんへ走りこみました。
もうすぐ休日が終わってしまいそうな、夕方のことです。

部屋が狭いので、一番小さなこたつを選ぶことにしました。
ところがそのこたつ、展示品しか残っておらず、説明書もないと言われました。
でも、私は「それでいいです」と、すぐに答えました。
そのときの私にとって、大事なのは“今ここに連れて帰ること”だったからです。

もちろん、あとからネットで探せば、もっと立派なこたつがあったかもしれません。
けれど、今この瞬間、自分に休む許可を出せるタイミングはもう逃したくなかったのです。
この小さなこたつは、何かの象徴のように感じられました。

家に帰ってから、きれいに拭いて、押し入れにあった布団をかけました。
スイッチを入れれば、あっという間にぬくぬくです。
こたつは、説明書なんてなくてもちゃんと仕事をしてくれるのですね。

もちろん、こたつに入ったまま家事はできません。
でも、だからこそ、そこに留まらざるを得なくなるのです。
終わらない緊張、尽きない「やることリスト」。
そんな毎日のなかで、自分をちょっと甘やかす場所ができたことは、思っていた以上に大きな意味がありました。

いまでも、ときどき思い出します。
あの冬の夕方、勇気を出して、あの子(こたつ)を迎えに行ってよかったなあと。

ぬくぬくともふもふ

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